トラウマに対する専門的な療法は、心理学的・医学的な研究に基づいて開発されたもので、深い傷や持続的な影響を和らげるのに効果的です。
ここでは、代表的なトラウマ治療法をわかりやすく説明します。それぞれの特徴やプロセス、どんな人に合うかをまとめますので、自分に合ったものを検討する参考にしてください。
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### 1. **EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)**
– **概要**: トラウマの記憶を処理するために、眼球運動(または他の両側刺激)を使い、脳の情報処理を助ける療法。
– **プロセス**:
1. トラウマの記憶を思い出しながら、セラピストの指を目で追う(左右に動く)。
2. 感情や体の感覚に気づきつつ、繰り返し刺激を受ける。
3. 記憶の「辛さ」が減り、落ち着いた視点で見られるようになる。
– **効果**: PTSD(心的外傷後ストレス障害)に特に有効。フラッシュバックや強い感情反応を軽減。
– **合う人**: 特定の出来事を鮮明に思い出すタイプの人や、体に残る緊張を解きたい人。
– **注意**: セラピストの指導が必要。最初は感情が一時的に強まる場合も。
### 2. **認知行動療法(CBT) – トラウマ焦点型**
– **概要**: トラウマによる「歪んだ思考」(例: 「私が悪い」「世界は危険」)を見直し、現実的な視点に変える。
– **プロセス**:
1. トラウマに関連する思考や信念を特定(例: 「助けを求めると拒絶される」)。
2. その思考が事実かどうか証拠を検討。
3. よりバランスの取れた考え方(例: 「一部の人は助けてくれる」)に置き換える。
– **効果**: 不安や自己否定感を減らし、日常生活での対処力を高める。
– **合う人**: 論理的に考えたい人や、トラウマ後のネガティブな信念に悩む人。
– **注意**: 感情より思考に焦点を当てるので、感情処理が苦手な人には最初難しいかも。
### 3. **暴露療法(Exposure Therapy)**
– **概要**: トラウマの引き金(トリガー)を少しずつ安全に体験し、恐怖反応を減らす。
– **プロセス**:
1. トラウマに関連する状況や記憶を段階的に思い出す(想像や現実で)。
2. セラピストのサポート下で、恐怖が「危険ではない」と体に慣れさせる。
3. 徐々に避けていた場面に慣れる(例: 大声が怖いなら小さな音から慣らす)。
– **効果**: 回避行動が減り、トラウマの影響を小さくする。
– **合う人**: 特定の場所や刺激を避けがちな人。
– **注意**: 強い不安を引き起こす可能性があるため、専門家の管理が必要。
### 4. **ソマティック・エクスペリエンシング(SE)**
– **概要**: トラウマが体に残した緊張やエネルギーを解放する、体感覚に焦点を当てた療法。
– **プロセス**:
1. 体の感覚(震え、熱、締め付けなど)に意識を向ける。
2. その感覚を無理なく感じ、徐々に解放する(例: 深呼吸や軽い動きで)。
3. 「安全」と感じる状態に戻る練習。
– **効果**: 体に溜まったストレスを解消し、過剰な警戒心を減らす。
– **合う人**: 感情より体の反応(動悸、緊張)が強い人や、言葉にするのが難しい人。
– **注意**: ゆっくり進むので、即効性を求める人には合わない場合も。
### 5. **ナラティブ療法(Narrative Therapy)**
– **概要**: トラウマを「物語」として語り直し、自分を被害者ではなく生き延びた主体として捉える。
– **プロセス**:
1. トラウマの出来事をセラピストと一緒に振り返る。
2. その中で自分の強さや価値を見つけ、「新しい物語」を作る。
3. トラウマを人生の一部として統合。
– **効果**: 自己肯定感が上がり、トラウマに支配されない感覚が育つ。
– **合う人**: 創造的な表現が好きな人や、人生の意味を見直したい人。
– **注意**: 感情的な負担が大きい場合、段階的に進める必要あり。
### 6. **グループ療法**
– **概要**: 同じようなトラウマを経験した人たちと共有し、支え合う。
– **プロセス**:
1. ファシリテーターのいるグループで体験を語る。
2. 他者の話を聞き、共感や気づきを得る。
3. 孤立感を減らし、つながりを感じる。
– **効果**: 「一人じゃない」と実感でき、回復への希望が持てる。
– **合う人**: 人と話すことで癒される人や、孤独感が強い人。
– **注意**: 他者の話で感情が揺さぶられる可能性がある。
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### 選び方のポイント
– **症状で選ぶ**: フラッシュバックが多いならEMDR、思考のクセが気になるならCBTなど。
– **自分の性格で選ぶ**: 体を動かすのが好きならSE、話すのが得意ならナラティブ療法など。
– **セラピストとの相性**: どの療法も、信頼できる専門家と進めることが成功の鍵。
### 日本での利用方法
– **探し方**: 「日本トラウマティック・ストレス学会」や「日本EMDR学会」などのサイトで認定セラピストを検索。
– **初回相談**: 多くのセラピストが無料相談を提供しているので、気軽に問い合わせてみる。
– **費用**: 保険適用外の場合、1回5,000〜15,000円程度が相場(施設による)。
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### 具体例
例えば、事故のトラウマで車の音に過敏な場合:
– **EMDR**: 事故の場面を思い出しながら眼球運動で恐怖を減らす。
– **暴露療法**: 小さな車の音から慣らし、徐々に外を歩けるように。
– **SE**: 音を聞いたときの体の震えを感じ、ゆっくり解放。
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これらの療法は、トラウマを「消す」ものではなく、「共存しながら自由になる」ためのツールです。
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